テストが終了した。出来栄えは良くも悪くもないといったところだろうか。周りの人たちはテストが終わった解放感からか、大きな声で遊びの計画を立てている。 それに比べて僕は特にやりたいこともない。かつて仲の良かった友達とは会う機会が減っていった。今は積極的に話しかけに来てくれる人もいない。ただ1人を除いて。 「ねえ、この後時間ある?」 そう、その1人とは柏宮花鶏。初めて会った日は花鶏も固そうな表情で、僕もどう接すればよいかわからなかった。今となっては花鶏はかなり積極的に話しかけてくれるようになった。 彼女に振り回されることも多いような気もするが……。 「遏雲の曲を聴きに行こう。素敵な音楽が待ってるはずだよ」 音楽を聴きに行くらしい。音楽ホールへ行くのか、それとも音楽ショップへ行くのか。とりあえず予定もないので了承した。 学校を出て歩く。歩いている間、僕たちは会話をした。まずはテストのことについて聞いてみると、 「国語はいい感じかな。数学は君が教えてくれたおかげで解けた問題があるよ」 とのことだった。音楽について聞いてみると、 「流行りの音楽には明るくない。そもそも普段音楽を聴く機会がないね。だから今日は楽しみ」 と語っていた。どのような音楽を聴けるのか、僕も楽しみな気持ちを抱きながら進んでいった。 しかし、なぜか僕たちは山奥へと入っていった。こんなところに音楽ホールもお店もないはずだ。花鶏に尋ねてみても、もうすぐだよ、としか返ってこない。 僕の中のもやもやした感情が怒りに変わろうかとしていたとき、滝のある場所に出た。 「ここだよ」 花鶏はそう宣言する。立派な滝が大きな水音を立てて流れている。美しい。が、音楽を聴きに行くはずではなかっただろうか。 「飛瀑は音楽を奏で、鳥は囀り、木々は揺れる。糸竹も歌声も必要だろうか?」 僕は花鶏の意図を理解する。自然の奏でる音、これこそが花鶏の聴きたかった音楽なのだ。彼女を見ると嬉しそうな表情で手帳にメモをしている。きっとこれも詩の題材になるのだろう。 僕も耳を澄ませて自然の奏でる音楽を聴く。言葉にはできないけど、いいものだと思った。 「遏雲の曲は、雲の流れをとどめるほどの美しい音楽のこと。きっと今、雲は止まっているはず」 そう言って空を眺める。灰色の雲が流れている。 「雨、降りそうだね」 僕たちは急いで引き返した。