今日は遠足で大きな公園まで歩いた。 運動をしたり食事をしたりした後、自由時間となった。 広場を離れ小道を進んでいくと、木陰で少し暗くなってきた。 しばらく歩くと、ベンチに同級生の花鶏(あとり)が座っているのが見えた。 ひとりでここにいたのかと尋ねてみると、 「君が来たからひとりじゃないよ」 と花鶏は答えた。答えになっていないような気がするけど、気にしないことにした。続けて花鶏は語る。 「自然っていいよね。この位置からは木が見える。落ち着くよね」 花鶏の視線の先にある木を眺める。風が吹いて葉っぱが音を立てている。 「でも、ここは私の追い求める桃源郷じゃない。人も多いし車の往来も多い。もっと幽邃な場所じゃないと」 花鶏が想像しているのは人気のないような、それこそ山奥とか樹海とかだろうか。 そこにはどんな景色が広がっているのだろうかと思うと同時に、遠足よりも遥かに大変な行程を歩まないといけなさそうと思った。 「あっ、そうだ」 そう言って花鶏は何かを取り出した。 「お菓子。食べる?」 僕はお菓子を受け取った。隣に座ってもよさそうだったので、ベンチに座った。 お菓子を食べた。甘い。隣を見ると花鶏も同じお菓子を食べている。 目が合った。くひひ、と花鶏は笑った。 「私が憧憬するのは深山幽谷だけど、こんな景色も、嫌いじゃない」 風が吹き、木の葉が音を立てる。木漏れ日が差し込む。