花鶏と鉛槧

新しいクラスになってからしばらくが経つ。 昔仲の良かった人たちは新しいクラスで新しい友達を見つけていた。その一方で僕は友達ができずにいた。 このクラスは真面目すぎる。みんな授業に騒いだりしない。 特に、柏宮花鶏(かしのみや あとり)。彼女は休み時間にも一生懸命何かを書いている。初めて会ったとき、花鶏は詩を書いていた。 今も詩を書いているのかもしれない。暇なので話しかけてみることにした。 「何か用事?」 何をしているのか尋ねた。 「詩を書いてる」 やっぱりそうだった。 「君も鉛槧に興味あるんだね」 鉛槧、確か詩文を書くことという意味だった。特に詩に興味があるわけではないが、せっかく話しかけたので聞いてみることにした。 「この前の詩、推敲が完了したよ。見てみる?」 紙を渡されたので、読んでみる。やはり難読漢字だらけで読めない。 花鶏は僕の反応をうかがっているようだ。ここは無難に、かっこいいと返しておくことにした。 「くひひ。よかった」 花鶏は笑った。もっとちゃんとした感想を言ったほうがよかっただろうかと思っていると、 「毀棄したり讒謗したりしないんだね。君は優しい」 と花鶏は言った。キキもザンボウもわからないが、どうやら褒められているらしい。 「誰かに読んでもらうために詩を書いてきたわけじゃないけど、読んでもらえるのって、嬉しいな……」 嬉しそうな表情を浮かべている。 「才藻はこれから涵養してく。よかったらまた詩を見てね」 そう言って花鶏は去っていった。 変わっているけど、悪い人ではなさそうだと思った。