花鶏と漢詩

遠足が終わり、いつもの日々に戻った。 ある日、僕は自分の席に座ろうとすると、同級生の花鶏(あとり)が駆け寄ってきた。 「作ってみたよ、漢詩」 花鶏は手に紙を持っている。僕はそれを受け取った。 そこには難しい漢字がいっぱい書かれていた。 以前に見た詩とは異なり、漢字は規則正しく配置されている。縦に7文字、横に4文字。 「どうかな……?」 花鶏は僕の反応を待っている。しっかりと読んでみる。すると分かる漢字もあった。そこから何が書かれているか推測してみる。 木、お菓子、幸福……。 そのときふと思った。これはもしかして、この間の遠足のことが書かれた詩なのではないか。 そう思って花鶏に聞いてみると、表情を一気に明るくして、 「その通り。これは遠足のときに見た景色を詩にしたものだよ」 と言った。花鶏はさらに語る。 「この詩は七言絶句の形にした。押韻も意識してる。でも平仄はちゃんとしてないかも。そこまでの技量はなかった」 漢詩の世界は奥深いらしい。花鶏はこれからも追求していくのだろうか。 「……あの時、勇気出してよかった」 花鶏は小さな声でつぶやいた。あの時? 「君と初めて出会ったとき、声をかけるかどうか悩んでた。私の詩のこと、気に入ってくれるかなって。嫌がられないかなって」 初めて会った日のことを思い出す。青空の隣で詩を書いていた花鶏。 「でも、声をかけてよかった。自分のためだけに書いてた詩が、誰かに読んでもらえる喜びを知った。新しいことにも挑戦した。他人のために詩を書きたいと思うようになった」 そして花鶏は「ありがとう」を僕に伝えた。そんなに感謝されるようなことはした覚えがないけれど……。 普通に仲良くしてくれるだけで嬉しいと僕は伝えた。花鶏はこう答えた。 「じゃあ、私たちは朋輩だね。くひひ」