花鶏と桎梏

季節は春から移り変わろうとしている。 それに合わせるように教室の空気も変わり始めている。テストが近いのである。今年度初めてのテストに向けて、周りの人たちは対策を始めている。 僕も勉強した方がよいだろうか。ふと花鶏の方を見ると、難しそうな表情をしていた。彼女も勉強しているのだろうか。 放課後になった。教室に残って自習している人もいる。せっかくだし僕も自習してみようかと思っていたら、花鶏が近寄ってきた。 「テストっていうのは、桎梏だね」 漆黒? 「もっと詩作に励みたいけど、試験勉強に時間を割かないといけない」 詩を作る時間がとれないことを悩んでいるようだ。 「しかし、こういった制約こそが沃饒さの源泉なのかもしれない。漢詩だって、押韻や平仄といった制約があるからこそこれだけの名作が生まれたのかもしれないし」 制約が豊かさを生み出しているというのは深そうな言葉だと思った。 「そんなことより、勉強教えて。数学の」 花鶏は数学の問題集を持ってきた。僕は数学を教えられるだろうかと少し不安になる。 「この問題、教えて」 花鶏は問題集を広げて指さした。少し考えて、この問題はあの公式を使うと解けるということがわかった。下手な説明だけど花鶏に教えた。 「ありがと」 その後もいくつかの問題を解くのを手伝った。 「おかげで助かったよ。ありがとね」 感謝してくれた。うまく伝わったようでよかった。 「お返しに私も勉強を教えてもいい?漢字のことなら教えられるけど」 お返しとして漢字のことを教えてもらった。とてもためになる話だったが、明らかに今回のテスト範囲ではないような……。 気がつくと遅い時間になっていた。他にいた自習をしていた人たちもいつの間にかいなくなっていた。 「そろそろ帰らないとだね。これもまた桎梏」 僕たちは家に帰らないといけない。そして明日も学校に行かないといけない。そんなことを考えながら花鶏と別れ、下校した。