花鶏と寸草

春の温かさを感じながら外を歩いていると、ベンチに同級生の花鶏が座っていた。 手帳に何かを書きながら考え事をしているようだったが、僕の存在に気づいて話しかけてきた。 「一緒にこの景色、見る?」 僕は花鶏の隣に座った。 ありふれた景色が広がっていた。詩を書く花鶏はこの景色をどのように感じているのだろうか。 「今は丈の短いこの草も、春の陽光を浴びて育つ。この寸草は、私なんじゃないかって思った」 花鶏の話を聞く。 「寸草春暉っていう四字熟語を最近知った。両親からの恩は非常に大きくて、少しでも報いることはできないっていう意味」 花鶏は語る。寸草は短い草のことで、恩返しをしようとする気持ちを表しており、春暉は春の陽光のことで、両親からの大きな恩のことらしい。 恩返しと聞いて、この間の出来事を思い出した。確か花鶏は料理を作ろうとしていたはず。 「うん。作ってみたよ、料理。簡単な料理だったけど、喜んでもらえたみたいでよかった」 それはよかった。 「でも、両親がやってくれてることって料理だけじゃない。やっぱり寸草春暉なのかも。それで相談なんだけど……」 花鶏は真剣な表情で僕に相談してきた。 「もっと恩返ししたいんだけど、どうしたらいいかな?」 僕は考える。しかし僕は親孝行と呼べるものをしたことがない。だから何も思いつかず、プレゼントを贈るとしか言えなかった。 「考えてくれてありがと。立派に親孝行できるように頑張る」 花鶏は立ち上がった。僕にはその姿が、春の陽光を浴びて立派に育った植物に見えた。 「この辺りを逍遥しながら詩の題材を探しつつ贈答品を考えるつもりだけど、君は来る?」 用事があるので僕は同行できないことを伝えた。手を振って花鶏と別れた。 寸草の心。僕も大切にしようと思った。