花鶏と鬱金香

放課後、帰ろうとしていると同級生の花鶏が近づいてきた。 「この後大丈夫?一緒に行きたいところがあるんだ」 僕は花鶏と一緒に下校することになった。 どこに行くのか聞いてみたけど、着いてからのお楽しみとしか答えてくれなかった。 しばらく歩くと、小さな公園に到着した。花鶏は立ち止まる。そこには綺麗な花壇があった。 「これだよ」 チューリップが視界に入った。自然の好きな花鶏は気に入りそうな景色だ。 「花は見た目だけじゃなくて、香りもいいみたい。だから昔から詩の題材になってきた」 そういうと花鶏は花に近づいて、香りを嗅ぎ始めた。 「なるほど……」 何かがわかったらしい。 「チューリップ。漢字で書くと鬱金香。とある漢詩で鬱金香の香りが詠まれてて、実際に体験してみたかった。といってもこの詩の鬱金香がチューリップなのかまではわからなかったけど」 そして花鶏は目を閉じて、そっとつぶやく。 「蘭陵美酒鬱金香、玉碗盛来琥珀光」 漢詩の一節だろうか。やがて花鶏は目を開けてこう語った。 「蘭陵の美酒は鬱金香の香り。美しい杯に盛れば琥珀色の輝き。鬱金香と琥珀光で韻を踏んでるのもいいし、嗅覚・視覚にそれぞれ訴えかけてくるのもいい」 他にもこの漢詩についていろいろ教えてもらった。 「これだけ美味しそうにお酒のことが詠まれたら、私も飲んでみたくなっちゃう」 また飲酒の話題だ。前も漢詩の影響でお酒に興味を持っていたような。 「鬱金香の香りのお酒、気になるな……」 勿論お酒は20歳になってから、と最後に付け加えていた。 こうして僕たちは別々の帰り道へ。 ちなみに、花の香りを嗅ぐことを勧められたけど、恥ずかしいのでしなかった。